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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)8070号 判決

原告 山田三樹

被告 自由ケ丘事業協同組合

主文

一、昭和三〇年九月一七日になされた前理事長山田三樹を告訴する旨の被告組合総会の決議を取り消す。

二、原告その余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

事実

原告は、「昭和三〇年九月一七日になされた、前理事長山田三樹を告訴する旨及び現役員を信任しない旨の被告組合総会の各決議を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

被告組合は中小企業等協同組合法(以下組合法という)に基く事業協同組合であり、原告はその組合員である。被告組合は昭和三〇年九月八日各組合員に対し同年同月一七日午後一時東京都目黒区自由ケ丘一二九番地ひかり会館において第四回臨時総会を開催する旨を通知する書面を発し、その総会において前記のような各決議がなされた。然るに、組合法第四九条、被告組合の定款第三六条によれば、総会を招集するには会日の一〇日前までに到達するように会議の目的たる事項及び日時場所を記載した書面を各組合員に発しなければならないのであるから、右総会招集の通知は適法な期間を存しないといわねばならない。よつて右総会の招集手続は法令及び定款に違反するから右総会においてなされた前記各決議の取消を求める。と述べた。〈立証省略〉

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、との判決を求め、答弁として原告が請求原因として主張する事実は全部認めるが、被告組合の組合員は殆ど同一建物に居住している関係上本件総会の招集通知は会日の一〇日前になされたと同一の効力を有するものであるから、原告の本訴請求は失当である、と述べた。

理由

中小企業等協同組合の組合員は、組合総会の決議により直接自己の権利が侵害されなくても組合自体の利益が脅されるときは、組合法第五四条、商法第二四七条第一項により、その決議の取消を求めることができるのであるが、当該決議が何等法律上の効果を有しない場合には、その取消を求める訴の利益は存しない。けだし、このような決議があつても、組合の利益に消長を及すところはないからである。本件総会決議のうち、現役員を信任しない旨の決議は、総会の意思の表明に過ぎず、それによつて何等の法律効果が発生するわけではない。従つて、原告の本訴請求中右決議の取消を求める部分は訴の利益を欠くから、その余の点につき判断をするまでもなくこれを棄却すべきである。

本件総会決議のうち、前理事長山田三樹を告訴する旨の決議は、それによつて被告組合の理事が同人(原告)を告訴すべく法律上拘束される(組合法第四二条、商法第二五四条の二)という法律効果を生ずるから、その取消を求める訴の利益が存しないとはいえない。(のみならず告訴自身、親告罪の場合を除き単に犯罪捜査の端緒となるものに過ぎないが、法は告訴人の利益を保護するためにこれに或る種の法律効果を認めているから、法律上全然無意味なわけではない。刑事訴訟法第二四二条、第二六〇条、第二六一条、検察審査会法第三〇条等参照。)そこで、取消事由の存否について審理するに、原告が請求原因として主張する事実は全部当事者間に争がないから、本件総会の招集通知は組合法第四九条、定款第三六条に違反するといわなければならない。被告は、被告組合の組合員は殆ど同一建物に居住している関係上本件総会の招集通知は会日の一〇日前になされたのと同一の効力を有すると主張するが、組合法第四九条定款第三六条は組合員に総会の議事の目的たる事項について準備する期間を保障する趣旨の規定であるから、右主張のような事情によつて前記法令、定款に違反する本件総会招集手続の瑕疵が治癒されるものではない。従つて右決議は取消を免れない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡部行男 滝川叡一 宍戸清七)

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